地域の繋がりで守り続ける。創建200年の「道徳稲荷社」

名鉄常滑線道徳駅からすぐの大通りに面し、ひっそりと佇む「道徳稲荷社」。遠い昔から道徳の農作の富を祈り、この地域を見守ってきました。 

200年にもわたる歴史には、戦災や災害を乗り越えてきた地域住民のたゆまぬ苦労と努力があります。今回は、そんなたくましい「道徳稲荷社」を紹介していきます。 

創建200年!かつては田んぼに囲まれた神社だった 

拝殿の写真
境内の中央にある拝殿。左手に見えるのは稲荷鳥居です

今から200年前の江戸時代、文政4年(1821年)に創建された「道徳稲荷社」。御祭神として倉稲魂命(うかのみたまのみこと)という穀物の神様が祀られています。 

道徳稲荷社が建つのは、かつては道徳前新田と呼ばれ、地域住民の豊作への願いが集った場所。当時は畑や田んぼに囲まれていたのだそうですよ! 

今や住宅街やお店が立ち並び、懐かしい下町の雰囲気が残る道徳の街。まわりに畑や田んぼがあったなんて、今となっては想像もつかないほどです。境内からは、ドコモショップ道徳店の看板も見えます! 

戦火や災害を乗り越えて今がある?! 

復興記念碑の写真
神社の外側に向けて立つ復興記念碑

創建されてから200年間、道徳稲荷社が歩んできた歴史は決して平坦なものではありませんでした。幾度となく戦災や自然災害に見舞われ、そのたびに再建を繰り返してきた同稲荷社。境内にある復興記念碑には、その歴史が記されています。生い茂る木々に覆われていますが、訪れた際には、記念碑に刻まれたエピソードも注目して読んでみてくださいね。 

中でも大打撃だったのは、昭和20年に遭った空襲と、昭和34年に起こった伊勢湾台風。当時残されていた資料は、焼け焦げたり、流されてしまったりしたものも多かったのだといいます。 

観音像の写真
海難防止として、1837年(天保8年)に鳥羽の青峯山正福寺より勧請した観音像

さまざまな困難を経験した同稲荷社は、修復や維持も一筋縄ではいきませんでした。一度は道徳エリアが所有する土地ではなくなってしまった時期もありましたが、地元の人々が協力し合って取り戻したのだそう。長い間、地域の財産として共有してきた場所なんですね。 

地域の絆とともに再建を続けていきたい

早川さんの写真
気さくに説明してくださった早川さん

江戸時代から受け継がれる道徳稲荷社を守り続けるのは、道徳稲荷社氏子総代代表の早川さん。200年もの月日が流れ、再建を重ねてきましたが、まだまだ手直しが必要な場所が多いと話します。 

ところが、「大変なこともあるけれど、だからこそやりがいがあるんですよ」とやさしく微笑む早川さん。これからも境内のあらゆる箇所を修復して、しっかりと再建していきたいと意気込む様子を見せてくれました。 

早川さんの後ろ姿
後ろの文字は、岐阜の書道家によるデザイン

早川さんが着ている白いはっぴは、年4 回行われる行事で必ず着るのだそうです!はっぴの後ろに描かれる「現場に神宿る」という文字は、「現場を大切にする心」を常にもって行動するというメッセージが込められているのだとか。

稲荷社なのに本殿は神明造!? 

本殿の写真

早川さんの案内で、境内をじっくりと散策。道徳稲荷社は、神明社でもあり稲荷社でもあるという、あまり類を見ない神社です。 

まずは中央の拝殿で神明社に参拝を! 

神社の入り口には、獅子が2体。鳥居をくぐって進むと、狛犬が鎮座しています。境内の中央に拝殿があり、まずはこちらへお参りするのがベター! 

参拝堂の写真
お賽銭を入れて参拝。アルコール消毒も用意してあります

高台には神明造の社があり、拝殿を見下ろすような形でそびえ立っています。本殿には伊勢神宮のお札が祀られており、ひと際目立つ豪華な造りです! 

末社の写真
本殿の左右には、末社が。左から神明社、熱田社、池鯉鮒社、多度社、秋葉社が並びます
境内の左手にある石碑には、御祭神や5つの末社の名前が彫られています

拝殿から左手に視線を移して見上げると、高くのびる松の木があります。早川さん曰く、植え付けされた時期は不明とのこと。もしかすると道徳稲荷社の歴史を一番近くで見届けてきた存在かもしれませんね。 

松の木の写真
大きな松の木は、空高くまでのびています

地域の団結で作った立派な稲荷社も! 

鳥居の写真
迫力のある真っ赤な鳥居がずらりと続きます

拝殿から左手を見ると、京都の伏見稲荷大社をほうふつとさせる真っ赤な稲荷鳥居があります。かつてはボロボロになっていた、この稲荷鳥居を直したのは早川さんなのだそうですよ。 

重軽石を持ち上げている写真
軽々と持ち上げられるように見えますが、重さは十分にあるのでご注意を

鳥居をくぐっていくと、奥に「重軽石」を発見しました。参拝する人が楽しめるものを作ろうと、早川さんのアイデアで設置。重軽石を「重たい」と感じるか、「軽い」と感じるか。心のバランスや体調など、日によって感じ方が異なるのだそうです。 

石の下に敷いてある座布団や、狐の前掛けは地元の人に作ってもらったのだとか。傍にある狐の石像にかけてある前掛けも、手作りだといいます。 

きつねの石像写真
「稲荷大神様」のお使いであるきつね

地域の人々と盛り上げる季節の行事も! 

道徳稲荷社では、年末から年始にかけて正月の行事を行うほか、3月半ばに初午、7月末に茅の輪くぐり、10月に秋祭りと年4回にわたって行事が開催され、地域の人々が集まって賑わいを見せます。 

わなげコーナーの写真
鳥居をくぐって右手にある、わなげコーナー

さらに境内にはわなげのコーナーもあるので、参拝時には子どもたちが遊ぶこともできますね! 

地元が歴史を紡ぐ、温かな道徳稲荷社へ!

のぼりの写真
境内の左手にずらりと並ぶ光景は圧巻です。中には100歳を超える方の名前も

境内の中でひと際目立つ110本もの赤いのぼりは、早川さんが地域の方々に掛け合い、その思いに応えた証。一つひとつに、住民の道徳稲荷社への愛情が込められているのです。 

地域との密接なつながりや温もりをひしひしと感じる「道徳稲荷社」。200年の歴史を体感しに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?